センター2017物理追試第5問「理想気体の状態方程式と内部エネルギー」

スポンサーリンク

■ピストンにはたらく力の矢印を描く

物理が苦手な文子
閉じ込められた気体の問題ね。理想気体の状態方程式とか,ボイル・シャルルの法則を使うと思うんだけど,どう使っていいか分からないわ。

物理が得意な秀樹
確かに,状態方程式やボイル・シャルルの法則を使う可能性もあるけど,このような問題でまず考えるのはピストンにはたらく力のつり合いだね。

物理が苦手な文子
そうなの?

物理が得意な秀樹
まぁまずはピストンにはたらく力の矢印を描いてみようと思うけど,問題の図に描かれていない情報などもあるので,まずは整理してみるね。


物理が得意な秀樹
まずはピストンにはたらく重力を考えるんだけど,問題文に「軽いピストン」とあるので,重力は無視できるんだ。

物理が苦手な文子
「軽い」っていうのは「重力が無視できる」っていうことね。

物理が得意な秀樹
次にくっついているものから力を受けるけど,くっついているものは何かな?

物理が苦手な文子
ピストンの上に乗っている液体ね。

物理が得意な秀樹
そうだね。ピストンだけ抜き出して描いてみると,こんな感じだね。その力はどのくらいの大きさか分かるかな?

物理が苦手な文子
液体の重力がそのままピストンを押しているのかな?

物理が得意な秀樹
そう考えたくなるけど,違うんだ。ちょっと置いておいて,他にくっついているものはあるかな?

物理が苦手な文子
まわりのガラス管。

物理が得意な秀樹
そうだね。周りのガラス管からも力を受けているはずだけど,水平方向の力で,水平方向の力を全て合わせるとつり合っているので,今は考えないことにするよ。ほかにピストンにくっついているものはあるかな?

物理が苦手な文子
もう無いわね。

物理が得意な秀樹
そう,通常はもう無いと考えるんだけど,これだと液体から受ける下向きの力に対して,上向きの力が無いことになるね。上向きの力がないと,ピストンにはたらく力はつり合わないね。

物理が苦手な文子
下にある気体も考えるの?

物理が得意な秀樹
そうなんだよ。気体が閉じ込められているときは,その閉じ込められている気体から受ける力を考える必要があるんだ。さらに,そのときには,閉じ込められていない気体から受ける力(通常は大気から受ける力)も考えることになるんだ。

■大気から受ける力を描くとき,描かないとき

物理が苦手な文子
大気から受ける力も考えるの?

物理が得意な秀樹
通常,空気中に物体があるときは大気圧を考えないよね。だけど実際は大気圧による力を受けているんだ。大気圧による力は全方向から受けるので,全てを合わせるとほとんどつり合っているんだ。

 

物理が苦手な文子
「ほとんど」って,実際はつり合っていないの?

物理が得意な秀樹
厳密に言うと,大気圧による力を全て合わせると「浮力」になるんだ。この大気中の「浮力」は重力や他の力と比べて,非常に小さいことが多いので無視できるんだね。

物理が苦手な文子
へぇー,無視できないこともあるの?

物理が得意な秀樹
熱気球を考えたりするときは,当然浮力は重要な力になるよね。あとは大気中じゃなくて,水中で考えるときには浮力は大切だよ。

物理が苦手な文子
なるほど。

物理が得意な秀樹
話を問題に戻すと,ピストンには上にある液体から受ける力と,下にある気体から受ける力がはたらいていて,つり合っているんだ。気体から受ける力の大きさは分かるかな?

物理が苦手な文子
気体の圧力はpと分かっているのよね。

■圧力

物理が得意な秀樹
そうだね。でも必要なのは圧力ではなく,力なんだよ。圧力って,この式で求められるよね。

物理が苦手な文子
なるほど。ガラス管の断面積はSだから,ピストンが受ける力はpSね。

物理が得意な秀樹
そうだね。ついでに,液体から受ける力を今はNとしておこう。

物理が苦手な文子
この2つの力がつり合っているのね。鉛直上向きを正として,力のつり合いの式を立てるわね。

    $$pS=N\dots \textcircled{\scriptsize 1}$$

物理が得意な秀樹
ただ,これだとまだNが分からないので,pも求められないよね。そこで,今度は液体にはたらく力を考えるよ。

物理が苦手な文子
液体にはたらく力?

物理が得意な秀樹
普通はあんまり考えないんだけど,この場合は考える必要があるんだ。

物理が苦手な文子
どうすればいいの?

物理が得意な秀樹
普通の物体と同じように考えていいよ。鉛直方向の力だけ考えようね。

物理が苦手な文子
まずは重力ね。液体の質量が与えられていないわね。

■密度

物理が得意な秀樹
その代わりに密度が与えられているでしょ。密度って,こういうことでしょ。

物理が苦手な文子
液体の体積は,断面積×高さでShだから,重力の大きさは\rho Shgね。

物理が得意な秀樹
次はくっついているものから受ける力だけど,下にあるピストンから受ける力だね。

物理が苦手な文子
さっき,ピストンが液体から受ける力の大きさをNとしたので,液体がピストンから受ける力は作用・反作用の関係なので,逆向きに大きさNね。

物理が得意な秀樹
その通りだ。最後に,大気から受ける力も考えるんだ。この液体とピストンの間には大気が入り込んでいる可能性はないでしょ。

物理が苦手な文子
確かに。液体は全方向から大気圧を受けているわけではないっていうことね。

物理が得意な秀樹
だから下向きの大気圧を考えるんだ。大気圧がp_0だから,力の大きさはp_0Sだね。

物理が苦手な文子
これで全部ね。鉛直上向きを正として,力のつり合いの式を立てるわね。

    $$N-p_0S-\rho Shg \dots \textcircled{\scriptsize 2}$$

物理が得意な秀樹
ピストンにはたらく力のつり合いの式①と合わせてNを消去しようか。

物理が苦手な文子
分かったわ。

    $$pS=p_0S+\rho Shg$$

    $$p=p_0+\rho hg$$

物理が得意な秀樹
そうだね。正解は⑤だ。次は問2だ。

■理想気体の状態方程式

物理が苦手な文子
温度を求めるのね。今度こそ理想気体の状態方程式を使うわね。

物理が得意な秀樹
そうだね。

物理が苦手な文子
そのまま入れていけば大丈夫そうね。

    $$p\times Sl=nRT$$

    $$T=\frac{pSl}{nR}$$

物理が得意な秀樹
そうだね。これが答えだ。選択肢でいうと⑤だ。最後に問3。

■温度を求める

物理が苦手な文子
気体の温度が下がったので,体積が減少して,ピストンの位置が下がったのね。

物理が得意な秀樹
そういうことだね。ちょっと図を描いておこうか。

物理が苦手な文子
気体部分の高さはl-aになるのね。温度も下がってT^\primeとしたのね。気体の圧力はpのままでいいの?

物理が得意な秀樹
pのままでいいんだよ。問1で描いた力の矢印を考えてみると分かるよ。

物理が得意な秀樹
大気圧も,液体の重力も変わっていないよね。ということは,ピストンが液体から受ける力も変わらないから,ピストンにはたらく力がつり合うためには,気体の圧力も変わらないよね。

物理が苦手な文子
温度が下がるから圧力も変わりそうだけど,確かにこの場合は変わらないのね。

物理が得意な秀樹
この段階で一度T^\primeを出しておこうか。

物理が苦手な文子
問2と同様に理想気体の状態方程式でいいわよね。

    $$p\times S(l-a)=nRT^\prime$$

    $$T^\prime =\frac{pS(l-a)}{nR}\dots\textcircled{\scriptsize 3}$$

物理が得意な秀樹
ここで,問2の答えを使ってpを消去しておこうか。

物理が苦手な文子
確かに,選択肢の中にはpは入っていないもんね。

問2より

    $$p=\frac{nRT}{Sl}$$

なので,③に代入

    \begin{eqnarray*}T^\prime &=&\frac{nRT}{Sl}\times\frac{S(l-a)}{nR}\\&=&\frac{l-a}{l}T\dots \textcircled{\scriptsize 4}\end{eqnarray*}

物理が得意な秀樹
いいね。これはちょっと置いておいて,求めたいのは気体の内部エネルギーの減少分だね。

■内部エネルギーを求める

物理が苦手な文子
内部エネルギーって,何となく記憶にあるけど,あんまり覚えてないわ。

物理が得意な秀樹
実は問題文に大切なキーワードがあるんだ。

物理が苦手な文子
なに?

物理が得意な秀樹
「単原子分子」っていう言葉だよ。

物理が苦手な文子
よく出てくる言葉ね。「単原子分子」って,ヘリウムとかアルゴンなどの希ガスのことよね。

物理が得意な秀樹
そうだね。問題文に「単原子分子」っていう言葉があれば,内部エネルギーを思い出して欲しいんだ。

物理が苦手な文子
この式を覚えておかないとダメなの?

物理が得意な秀樹
ん〜そうだね。覚えておいた方が良いね。

■「変化量」と「減少量」の違い

物理が苦手な文子
この式を覚えることにして,結局内部エネルギーは温度に比例するので,温度が分かっていれば,減少分も計算できるということね。

物理が得意な秀樹
その通り。ただ,「減少分」ってどうやって計算すればいいのか分かる?

物理が苦手な文子
引き算よね。

物理が得意な秀樹
そう,引き算なんだけど,引く順番を間違えちゃダメだよね。分かりにくい「変化量」と「減少量」を比較してみよう。

物理が苦手な文子
「○○」には何が入るの?

物理が得意な秀樹
何でもいいんだけど,例えば「エネルギー」とか「運動量」などだね。

物理が苦手な文子
「変化量」を問われたときと,「減少量」を問われたときでは引き算の順序が逆になるのね。

物理が得意な秀樹
「変化量」は減少しているときは負になってもいいけど,「減少量」を聞かれたときには正で答えなければならないんだね。

物理が苦手な文子
今は「減少分」を問われているから,変化前の内部エネルギーから変化後の内部エネルギーを引けばいいのね。

    \begin{eqnarray*}\Delta U&=&\frac{3}{2}nRT-\frac{3}{2}nRT^\prime\\  &=&\frac{3}{2}nR\left(1-\frac{l-a}{l}\right)T\\  &=&\frac{3}{2}nR\times \frac{a}{l}T\\  &=&\frac{3a}{2l}nRT\end{eqnarray*}

物理が得意な秀樹
その通り。答えは④だ。

 

タイトルとURLをコピーしました